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直交位相振幅スクイーズド状態

2つの直交位相振幅は、互いに位相が90 tex2html_wrap_inline1051 ずれた振幅を表すので、直交位相振幅スクイーズド状態を発生するには、位相に敏感な利得を持つ非線形光学過程が用いられる。それには、第2次高調波発生やその逆過程であるパラメトリック増幅といった2次の非線形過程と、四光波混合などの3次の非線形過程がある。これらの光学過程が位相に敏感な利得を持つことは、Maxwell方程式を用いた通常の非線形光学の議論で確かめることができる[16]。 tex2html_wrap_inline1053 という関係を満たす三つのモードを考え、 電場の複素振幅 tex2html_wrap_inline1055 を次式のように導入する gif

equation311

パラメトリック過程は、次の方程式によって記述できる。

tex2html_wrap_inline1065 = -igA_2^*e1.8ex tex2html_wrap_inline1067

tex2html_wrap_inline1069 = +igA_1e1.8ex tex2html_wrap_inline1071

displaymath1047

displaymath1048

ここで、 tex2html_wrap_inline1077 は2次の非線型感受率である。 これらの式の解は以下で与えられる。

A_1(z) = gzA_1(0)-i e^i tex2html_wrap1093 gz A_2^*(0)  

A_2^*(z)=gzA_2^*(0)+i e^i tex2html_wrap1093 gz A_1(0)

この2式を、(5-b)式と比べると、両者は一致することが分かる。 (5-b)式はスクイージングによる演算子の変化を表していると考えることが出来るので、古典論による議論でもスクイージングに必要な、位相に敏感な利得を正しく扱うことが出来ることがわかる。

大きなスクイージングを実現するためには、非線形効果が大きいこと、光吸収や余分な雑音発生機構などのスクイージングを破壊する過程が無いことが必要である。非線形効果を強くするための工夫としては、これまで、Fabry-Pérot共振器を用いる方法、パルス光の高い瞬間強度を利用する方法、導波路により長い相互作用長を得る方法が行われてきた。スクイージングが通常の光損失によっても容易に破壊されてしまうことは、大きなスクイージングを実現したり、それを応用する際に忘れてはならない重要な要素である。例えば、スクイーズド光を使って10dBのS/N比の向上を実現するためには、光損失が10%未満でなければならない。

これまでに観測された最も大きな直交位相振幅スクイージングは、共振器を用いた、KNbO tex2html_wrap_inline1079 結晶中でのパラメトリック増幅で実現された[17]。図2にその実験配置図と観測結果を示す。

  
Figure: パラメトリック過程によるスクイーズド光の発生と観測

光源は、Arレーザー励起の単一モードTi:サファイアレーザーである。その第2高調波を外部共振器を使って効率よく発生し( tex2html_wrap_inline1081 50%)、パラメトリック増幅の励起光として用い、波長可変なスクイーズド光を発生することができる。三つの共振器、つまり、レーザー共振器、第2高調波のための共振器、リング型パラメトリック発振器の周波数は、すべて参照用の共振器にFMサイドバンド法を使ってロックされている。パラメトリック発振器は、初期の実験のものとは異なり[18]、スクイーズド光に対してのみ共鳴している。

直交位相振幅スクイーズド光は、ある位相のゆらぎが量子雑音レベルより小さくなっているかわりに、それと90 tex2html_wrap_inline1051 位相の離れた振幅のゆらぎは大きくなっている。位相に敏感な雑音パワーの検出は、平衡型ホモダイン検出法によって行われ[19]、局所発振光(LO)には、Ti:サファイアレーザーの一部が用いられている。LOの位相を変えていくと、特定の位相値で雑音パワーは量子雑音レベルより75%(6dB)小さくなった。彼らは、このスクイーズド光を用いたFM飽和分光を行い、量子限界に比べて3.1dBのS/N比の向上を達成した。この実験でスクイージングの大きさを制限していたのは、KNbO tex2html_wrap_inline1079 のスクイーズド光に対する吸収である。これは第2高調波によって誘起される、1%程度の損失である。このような微弱な吸収が大きな効果を及ぼすのは、共振器によって非線形性とともに、損失も実効的に増大するからである。 パラメトリック発振器によるスクイーズド光の発生では、もし、共振器内に出力鏡以外の光損失がなければ、利得が大きくなって発振のしきい値に近づくとき、無限に大きなスクイージングが得られる[20]。しかし、光損失が存在するときのゆらぎの縮小率は、(出力鏡による損失)/(共振器内の光損失+出力鏡による損失)程度となる。パラメトリック発振器は、発振しきい値より下の領域で用いられ、発生するスクイーズド光は、振幅の期待値がゼロの、真空のスクイーズド状態になる。

共振器のもう一つの働きは、スクイーズド光の空間的なモードと周波数に対する選択性を与えることである。つまり、共振器から発生するスクイーズド光は、共振器で定義される良い空間モードを持つが、その帯域も共振器の透過帯域で制限されたものになる。そこで、パルス光の高い瞬間強度を利用し、シングルパスの進行波型パラメトリック増幅でスクイーズド光を発生すれば、広帯域のスクイージングを実現でき、さらに、光損失の影響を小さくできる。平衡型ホモダイン検出法でゆらぎの大きさを観測するとき、周波数 tex2html_wrap_inline1087 に現れる信号は、角周波数 tex2html_wrap_inline1089 の信号光から生ずる[21]。ただし、 tex2html_wrap_inline1091 は、局所発振光の角周波数である。よって、ゆらぎの縮小が観測される周波数帯域は、スクイーズド光のスペクトル分布によって与えられる。広帯域スクイーズド光は、短い時間領域でのS/N比の向上に利用することができると考えられる。シングルパスの方法のもう一つの長所は、共振器を用いる場合に必要な複数の共振器に対する制御が不要で、システムが簡便な点である。

進行波型縮退パラメトリック増幅による実験の配置図と結果を図3に示す[22]。

  
Figure: パルス光によるスクイーズド光の発生と観測

光源は、繰り返し周波数が82MHzの連続波モード同期YAGレーザーである。縮退パラメトリック増幅で発生するスクイーズド光の波長は、励起光の2倍になるので、ホモダイン検出をするためには、励起光の2倍の波長をもつLOが必要である。そのため、パラメトリック増幅の励起光には光源となるレーザー光の第2高調波を、LOには元の光源の一部を分離して用いる。特に、パルス光を用いる場合、このようにすることで、LOとスクイーズド光の時間幅をほぼ等しくすることができる。パラメトリック増幅は、オーブンの中で温度制御された非線形結晶の中で起こる。LOとスクイーズド光の相対的な位相の掃引は、PZTを取り付けた鏡により行われる。広帯域スクイージングを観測するために、スペクトラムアナライザの周波数とLOの位相を同時に掃引してある。 図3より、スクイージングは少なくとも観測周波数範囲内で一様であり、最大で34%(1.8dB)の量子ゆらぎの減少が観測されていることがわかる。スクイージングの実験では、量子雑音レベルをどのようにして決定するかということが、重要な要素となる。特に、パルス光を用いた実験では、パルスの繰り返し周波数の整数倍の周波数に現れる強い信号が原因となって、検出器の飽和が問題となる。この実験では、増幅器の利得が高周波で小さくなるような工夫を施し、連続光とパルス光で同じ量子雑音レベルが観測されることを確かめている。この実験で、スクイージングの大きさを制限していたのは、非線形結晶の"ダメージ"である。そのために、励起光の強度が制限され、より大きな非線形効果を得ることが出来なかった。



Takuya Hirano
Fri Jun 20 16:25:04 JST 1997