この章では、光の強度相関を測定する実験を紹介する。強度相関は、時刻tにおける電場強度I(t)と時刻 における の積を測定するものである。電磁場を波動として扱う場合には、 という関係式より、
が要求される。ただし、古典論の場合 は、統計的な平均を意味する。光のアンチバンチング現象は、(26)式の不等式が成立しない場合、つまり となる現象である。これは、光の古典論では説明のできない現象で、むしろ光を粒と考えると良く理解できる[33]。輻射場が光子から成り立っていると考えると、 の測定は、時刻tに1個の光子を、時刻 にもう1個別の光子を検出する結合確率密度の測定である。1個の光子を検出したとき、その近くにもう1個別の光子を検出する確率が小さくなっている場合には、 が小さいほど強度相関の値も小さくなり、アンチバンチング(反集群)が観測される。
アンチバンチングが最初に観測されたのは、共鳴蛍光の実験である[34]。共鳴的に励起されている単一の2準位原子から発生する蛍光がアンチバンチングを示すことは、次のように考えると容易に理解できる。光子を1個放出した後原子は基底状態に戻ってしまうので、再び励起状態に戻るまではもう1個別の光子を放出することができない、つまり時間的に近接した2つの光子の存在する確率が小さくなり、アンチバンチングが観測される。
もう少し複雑な3準位原子の場合の測定結果の例を図6に示す[35]。
図の縦軸は、規格化された2次の相関関数と呼ばれる量である。
は演算子のノーマルオーダリングを表す。 は(26)式の右辺を左辺で割ったものなので、 がアンチバンチングの条件となる。図6を見ると、 で となっている。 のとき は複雑な振る舞いを示している。これは上準位にいる存在確率を示していて、電子が3準位の間を複雑に移り歩く様子が直接見えていると考えることができる。
(27)式は、シングルモードの場合、 となる。第2章で紹介した状態に対して を計算すると、コヒーレント状態は常に 、光子数状態は となる。直行位相振幅スクイーズド状態の場合は、パラメータによりいろいろな値を取り、アンチバンチングを示す場合もある。このことは実験で確かめることができる[36]。この場合、アンチバンチングを示す光はサブポアソン状態になっている。