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はじめに

近年、光の量子論に関する研究が盛んに行われているが、まず、その背景について考えてみたい。

よく知られているように、光に関する研究は長い歴史があり、特に、その粒子性と波動性については多くの議論が行われている。光電効果とコンプトン効果は、光の粒子性を示す証拠であると思われるかも知れないが、物質のみを量子化し電磁場を波動として扱う半古典論で説明できることが知られており[1, 2]、どのような現象が真に光の量子論を必要とするかということは、現在でも多くの関心を集めている。このような光自身に対する興味が、研究の背景の一つである。ふたつめとして、光を用いて、非局所性や観測問題といった量子力学の根幹に関わる問題を調べるという問題意識を挙げることができる[3, 2]。例えば、光と物質の非線形な相互作用を利用して、二つの光子の間にEPRタイプの相関を形成し、ベルの不等式を検証するという研究が行われている。

これらの基礎的な興味のほかに、ここ数年の間盛んに研究が行われた背景に、応用上の期待がある。1960年のレーザーの発明以降、光のコヒーレンスを制御する技術は飛躍的に進歩し、レーザー光を使った測定・計測の精度は著しい進歩を遂げた。しかし、そのレーザー光も量子力学の不確定性原理によって定められる不確定さを持っており、それは、測定の際に、量子限界と呼ばれる測定精度の限界を与える。現在、光通信やレーザジャイロの性能は、ほぼ量子限界に到達しており[4]、また、重力波の検出のためには、その要求される感度ゆえ量子限界の問題を避けて通れない[5]。このように、輻射場の量子力学的な性質が、種々の精密測定の際に現実的な限界を与えるものとして意識されるようになり、より高い感度や性能を達成するために、輻射場の量子制御、つまり光の量子力学的な性質を制御することに関心が集まるようになった。

スクイーズド光は、通常のレーザー光よりも小さなゆらぎを持っており、これまでの量子限界を超えた高感度の測定・計測が可能になる。また、上で述べたようなEPRタイプの相関を利用した秘匿性の高い暗号通信(量子暗号通信)や[6]、測定の反作用によって情報が乱されないようにする量子非破壊測定の研究は[7]、特に通信の分野で将来の応用が期待される。物性の分野への応用としては、量子論的な特徴を調べることにより、光を古典的に扱う場合には得ることの出来ない情報が得られるようになると期待される。その雛形としては、共鳴蛍光の強度相関を測定した実験が挙げられる。

以上、「輻射場の量子制御」の問題意識と目的を簡単に紹介した。以下では、これに関連した基本的な事項とこれまでに行われてきた実験を紹介したい。



Takuya Hirano
Fri Jun 20 16:25:04 JST 1997